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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)6024号 判決

〈1〉事件原告、〈2〉事件被参加人(以下「原告 山根賢一」という。) 山根賢一

〈3〉〈5〉事件原告、〈4〉〈6〉事件被参加人(以下「原告山根眞一」という。) 山根眞一

右両名訴訟代理人弁護士 後藤孝典

同 尾嵜裕

同 山口紀洋

同 安田好弘

同 大津卓滋

同 辻恵

同 長谷川純

〈7〉事件原告 野口周一

〈7〉事件原告 瀬戸口昌子

〈2〉〈4〉〈6〉事件参加人、〈7〉事件原告(以下「参加人野口孝子」という。) 野口孝子

〈2〉〈4〉〈6〉事件参加人(以下「参加人野口二雄」という。) 野口二雄

右四名訴訟代理人弁護士 森田健二

同 中村晶子

同 島田寿子

同 吉沢寛

同 藤重由美子

右訴訟復代理人弁護士 蛭田孝行

〈1〉事件被告、〈2〉事件被参加人(以下「被告シグナ」という。) 脱退被告インシュランスカンパニー・オブ・ノースアメリカ承継人 シグナ・インシュアランスカンパニー

日本における代表者 ジアンフランコ・モンガーディ

右訴訟代理人弁護士 島林樹

同 日野和昌

同 安田昌資

同 中杉喜代司

右訴訟復代理人弁護士 藤本達也

脱退被告 インシュランスカンパニー・オブ・ノースアメリカ

日本における代表者 宗像正吉

〈3〉事件被告、〈4〉事件被参加人(以下「被告東京海上」という。) 東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 松多昭三

〈5〉事件被告、〈6〉事件被参加人(以下「被告三和航空」という。) 株式会社三和航空サービス

右代表者代表取締役 井上不二男

右両名訴訟代理人弁護士 服部弘志

同 山田伸男

同 浅岡輝彦

同 庭山正一郎

同 須藤修

同 中島史郎

同 山岸洋

右訴訟復代理人弁護士 村田珠美

〈7〉事件被告(以下「被告ランバーメンズ」という。) ランバーメンズ・ミューチュアル・カジュアルティー・カンパニー(保険相互会社)

日本における代表者 ジョバンニ・ラニエリ

右訴訟代理人弁護士 福田盛行

主文

一  被告東京海上は、原告山根眞一に対し、金三三三三万三三三三円及びこれに対する昭和六一年六月一八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告三和航空は、原告山根眞一に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六一年六月一八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告東京海上は、参加人野口二雄及び野口孝子に対し、各金八三三万三三三三円及びこれらに対する昭和六二年一月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四  被告三和航空は、参加人野口二雄及び同野口孝子に対し、各金二五〇万円及びこれらに対する昭和六二年一月九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

五  原告山根賢一の被告シグナに対する請求、原告野口周一、同瀬戸口昌子及び参加人野口孝子の被告ランバーメンズに対する請求、参加人らの原告山根賢一、同山根眞一及び被告シグナに対する請求並びに被告東京海上及び同三和航空に対するその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用中、原告山根賢一及び被告シグナに生じた費用のうち各五分の四は、原告山根賢一の負担とし、原告山根眞一に生じた費用のうち五分の四は、被告東京海上及び同三和航空の負担とし、被告東京海上及び同三和航空に生じた費用のうち各五分の四は、同被告らそれぞれの負担とし、被告ランバーメンズに生じた費用は、原告野口周一、同瀬戸口昌子及び参加人野口孝子の負担とし、原告野口周一及び同瀬戸口昌子に生じた費用は、同原告らそれぞれの負担とし、原告山根賢一、同山根眞一、被告東京海上、同三和航空及び同シグナについて生じたその余の費用並びに参加人両名について生じた費用は、参加人らの負担とする。

七  この判決は、第一項ないし第四項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告東京海上において原告山根眞一に対して金一〇〇〇万円、被告三和航空において原告山根眞一に対して金三五〇万円、被告東京海上において参加人野口二雄に対して金二五〇万円、被告東京海上において参加人野口孝子に対して金二五〇万円、被告三和航空において参加人野口二雄に対して金八〇万円、被告三和航空において参加人野口孝子に対して金八〇万円の担保を供するときは、右担保を供した原告からの仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告山根賢一及び同山根眞一

1  被告シグナは、原告山根賢一に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年六月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告東京海上は、原告山根眞一に対し、金三三三三万三三三三円及びこれに対する昭和六一年六月一八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  被告三和航空は、原告山根眞一に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六一年六月一八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4  参加人らの請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は、被告ら及び参加人らの負担とする。

6  第1項ないし第3項につき仮執行宣言。

二  原告野口周一、同瀬戸口昌子及び参加人ら

1  原告山根賢一と参加人ら各自の間において、参加人ら各自が被告シグナに対し、昭和五九年一二月二七日ころ、原告山根眞一と脱退被告との間で締結された保険契約に基づく金五〇〇〇万円の死亡保険金請求権を有することを確認する。

2  被告シグナは、参加人ら各自に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年一月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  原告山根眞一と参加人ら各自の間において、参加人ら各自が被告東京海上に対し、昭和六〇年一月一日、原告山根眞一と被告東京海上との間で締結された保険契約に基づく金三三三三万三三三三円の死亡保険金請求権を有することを確認する。

4  被告東京海上は、参加人ら各自に対し、金四一六六万六六六六円及びこれに対する昭和六二年一月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

5  原告山根眞一と参加人ら各自の間において、参加人ら各自が被告三和航空に対し、昭和五九年一二月二五日ころ、山根利恵と同被告との間で締結された補償契約に基づく金一〇〇〇万円の補償金請求権を有することを確認する。

6  被告三和航空は、参加人ら各自に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年一月九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

7  被告ランバーメンズは、原告野口周一に対し金五〇〇〇万円、原告瀬戸口昌子に対し金五〇〇万円、参加人野口孝子に対し金二〇〇〇万円、及びこれらに対する昭和六二年一月一七日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

8  訴訟費用は、原告山根賢一、同山根眞一及び被告らの負担とする。

9  第2項、第4項、第6項及び第7項につき仮執行宣言。

三  被告ら

1  原告ら及び参加人らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告ら及び参加人らの負担とする。

第二原告山根賢一及び同山根眞一の請求原因

一1  昭和五九年一二月二七日ころ、アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インク(以下「アメックス」という。)は、脱退被告との間で、保険料を月額四六七〇円とし、被保険者山根利恵が昭和六〇年一月一日から同年一一月一日午後四時までの間に急激かつ偶然の外来事故に遭遇し、事故日から一八〇日以内に死亡したときには原告山根賢一に対して保険金五〇〇〇万円を支払うとの内容の保険契約を締結した。

2  仮に、右が認められなくとも、昭和五九年一二月二七日ころ、原告山根眞一は、脱退被告の代理人であるアメックスとの間で、保険料を月額四六七〇円とし、被保険者山根利恵が昭和六〇年一月一日から同年一一月一日午後四時までの間に急激かつ偶然の外来事故に遭遇し、事故日から一八〇日以内に死亡したときには原告山根賢一に対して保険金五〇〇〇万円を支払うとの内容の保険契約を締結した。

3  脱退被告は、昭和六一年七月一日、主務大臣の許可を得て、保有する保険契約の全部を包括して被告シグナに移転した。

二  昭和六〇年一月一日、原告山根眞一は、被告東京海上との間で、保険料を二万二〇〇〇円とし、山根利恵又は原告山根眞一が同月三日から一〇日までの間、海外旅行の目的をもった住居の出発から帰着までの間に急激かつ偶然の外来事故に遭遇し、事故日から一八〇日以内に死亡したときには死亡した者の法定相続人に対して保険金五〇〇〇万円を支払うとの内容の保険契約を締結した。

三  昭和五九年一二月二五日ころ、山根利恵は、被告三和航空との間で、同被告の主催する昭和六〇年一月三日から一〇日までの間の海外旅行の期間中、山根校利恵が急激かつ偶然の外来事故に遭遇し、事故日から一八〇日以内に死亡したときには同人の法定相続人に対して補償金一五〇〇万円を支払うとの内容の契約を締結した。

四  山根利恵は、昭和六〇年一月五日午後九時ころ、被告三和航空主催の旅行先であるモルジィブ共和国ビアドゥ島の海岸にて溺死した。

五  山根利恵の法定相続人は、同人の夫原告山根眞一、同人の両親参加人野口孝子及び同野口二雄である。

六  よって、

1  原告山根賢一は、被告シグナに対し、保険契約に基づき金五〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六〇年六月一一日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を、

2  原告山根眞一は、

(一) 被告東京海上に対し、保険契約に基づき金三三三三万三三三三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年六月一八日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を、

(二) 被告三和航空に対し、補償契約に基づき金一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年六月一八日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を、

それぞれ求める。

第三原告野口周一、同瀬戸口昌子及び参加人らの請求原因及び参加請求の原因

一  山根眞一は、昭和六〇年一月二日ころ、被告ランバーメンズの代理人である株式会社ザ・パイドパイパー・オフィス(以下「ザ・パイドパイパー」という。)との間で、山根利恵又は原告山根眞一が同月三日から一〇日までの間、海外旅行の目的をもった住居の出発から帰着までの間に急激かつ偶然の外来事故に遭遇し、事故日から一八〇日以内に死亡したときには原告野口周一に対して保険金五〇〇〇万円(保険料八二〇〇円)、原告瀬戸口昌子に対して保険金五〇〇万円(保険料一三六〇円)、参加人野口孝子に対して保険金二〇〇〇万円(保険料六六〇〇円)を支払うとの内容の保険契約を締結した。

二1  第二の一から五までに同じ

2  昭和六〇年一月中旬ころ、原告山根眞一は、原告山根賢一の脱退被告に対する保険金請求権(第二の一参照)について同原告の代理人として、原告山根眞一の被告東京海上及び同三和航空に対する保険金(補償金)請求権(第二の二、三参照)について本人として、参加人らに対し、右各請求権を贈与した。

3  脱退被告、被告東京海上及び同三和航空は、同月下旬ころ、右債権譲渡を承諾した。

三  よって、

1  原告野口周一は、被告ランバーメンズに対し、保険契約に基づき金五〇〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年一月一七日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を、

2  原告瀬戸口昌子は、被告ランバーメンズに対し、保険契約に基づき金五〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年一月一七日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を、

3  参加人野口孝子は、被告ランバーメンズに対し、保険契約に基づき金二〇〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年一月一七日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を、

4  参加人ら各自は、

(一) 保険金請求権の贈与契約に基づき、原告山根賢一との間において、参加人ら各自が被告シグナに対して請求の趣旨記載の金五〇〇〇万円の死亡保険金請求権を有することの確認を、

(二) 保険金請求権の贈与契約に基づき、原告山根眞一との間において、参加人ら各自が被告東京海上に対して請求の趣旨記載の金三三三三万三三三三円の死亡保険金請求権を有すること及び被告三和航空に対して金一〇〇〇万円の補償金請求権を有することの確認を、

(三) 保険契約に基づき、被告シグナに対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年一月二二日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を、

(四) 保険契約に基づき、被告東京海上に対し、金四一六六万六六六六円(三三三三万三三三三円は山根眞一から贈与を受けた分、その余は参加人ら固有の保険金請求権)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年一月二一日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を、

(五) 補償契約に基づき、被告三和航空に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年一月九日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を、

それぞれ求める。

第四請求原因及び参加請求の原因(第二及び第三)に対する被告らの認否

一  被告シグナ

第二の一1記載の事実は否認し、同一2記載の事実は、保険契約締結の日(昭和五九年一二月二四日である)を除き、認める(いずれも第三の二1において引用する場合を含む。)。

アメックスは、脱退被告の保険代理店として、保険料の集金、振込、保険証券の交付などを行っていたもので、保険契約者は、アメックスの発行するクレジットカードの利用者であり、同社に対して保険加入を依頼した原告山根眞一である。

二  被告東京海上

第二の二記載(第三の二1において引用)の事実は、認める。

三  被告三和航空

第二の三記載(第三の二1において引用)の事実は、認める。

四  被告ら共通

第二の四記載(第三の二1において引用)事実中、山根利恵の死因は知らず、その余の事実は、認める。

五  被告東京海上及び同三和航空

第二の五記載(第三の二1において引用)の事実は、認める。

六  被告ランバーメンズ

第三の一記載の事実は、否認する。

七  被告シグナ、同東京海上及び同三和航空

1  第三の二2記載の事実は、知らない。

2  同3記載の事実は、否認する。

第五参加人らの参加請求の原因(第三の二)に対する原告山根賢一及び同山根眞一の認否

一  第三の二1記載の事実は、認める。

二  同2記載の事実は、否認する。

三  同3記載の事実は、知らない。

第六被告らの抗弁

一  被告シグナ-第二の一(第三の二1において引用)について

1  原告山根眞一と脱退被告との保険契約においては、被保険者たる山根利恵の同意を要する旨の約定がされた。

2(一)  右保険契約において、保険契約者(原告山根眞一)は重複保険を締結するときは脱退被告に通知し、保険証券へ承認の裏書を請求すること、及び重複保険契約の事実を知ったとき、脱退被告は右契約を解約できる旨の約定がされた。

(二)  原告山根眞一は、右契約の締結後の昭和六〇年一月一日に被告東京海上と、同月二日ころに被告ランバーメンズとの間に、それぞれ保険契約(内容は、第二の二及び第三の一参照)を締結した。

(三)  脱退被告は、同年二月八日、原告山根眞一に対し、右保険契約を解除する旨の意思表示をした。

二  被告東京海上-第二の二(第三の二1において引用)について

1  原告山根眞一と被告東京海上との保険契約においては、保険契約者(原告山根眞一)は重複保険を締結するときは被告東京海上に通知し、保険証券へ承認の裏書を請求すること、及び重複保険契約の事実を知ったとき、同被告は右契約を解約できる旨の約定がされた。

2  原告山根眞一は、右契約の締結後の昭和六〇年一月二日ころ、被告ランバーメンズとの間に保険契約(内容は第三の一参照)を締結した。

3  被告東京海上は、同年二月七日ころ、原告山根眞一に対し、右保険契約を解除する旨の意思表示をした。

三  被告ランバーメンズ-第三の一について

1  原告山根眞一と被告ランバーメンズとの保険契約においては、被保険者たる山根利恵の同意を要する旨の約定がされた。

2  右契約においては、保険料を支払った後の保険事故についてのみ、保険金を支払うとの約定であった。

3(一)  右保険契約においては、被保険者(原告山根眞一)は重複して保険に加入しているときは、これを被告ランバーメンズに告知するべきこと、及び右告知義務違反の事実を知ったとき、同被告は右契約を解約できる旨の約定がされた。

(二)  原告山根眞一は、右契約の締結前の昭和五九年一二月二七日ころ、脱退被告と保険契約(内容は第二の一参照)を締結していた。

(三)  被告ランバーメンズは、昭和六〇年二月ころ、原告山根眞一に対し、右契約を解除する旨の意思表示をした。

四  被告ら共通-全保険について

1  原告山根眞一と脱退被告(第二の一)、被告東京海上(第二の二)及び同ランバーメンズ(第三の一)との各保険契約においては、保険契約者(原告山根眞一)の故意によって生じた事故については保険金を支払わないとの約定がされ、山根利恵と被告三和航空との間の契約(第二の三)においても、補償金受取人(原告山根眞一)の故意によって生じた事故については補償金を支払わないとの約定がされた。

2  山根利恵の死亡は、次の事実からみて、山根眞一の故意によって引き起こされたものである。

(一) 原告山根眞一と山根利恵の夫婦関係は、破綻していた。すなわち、原告山根眞一は、瀬口邑と昭和四五年ころからの内縁関係を経て同四七年八月二八日に婚姻し、同五一年二月二五日には同女と離婚し、同五四年二月三日には安藤玲子と婚姻したが、同五七年一二月七日には同女とも離婚し、さらに同五八年一一月二一日には山根利恵と婚姻したものの、昭和五九年五月ころから夫婦仲が悪くなった。山根利恵は、昭和五九年六月末ころには、神光会教祖松元美智子及び同会理事長菅又保らに対し、自己の男性関係や経済的問題を理由として、原告山根眞一との離婚について相談していた。また、原告山根眞一は、山根利恵からの離婚の申入れに対し、戸籍をよごさずに離婚できるから待つようにと言って離婚の時期を遅らせていた。

(二) 原告山根眞一は、昭和五九年一一月末ころに被告三和航空に対し、「モルジィブ・ビアドゥ八日間」のコースの旅行を申し込み(のち、同六〇年一月三日出発の旅行に変更)、被告三和航空の担当者から、あらかじめ、ビアドゥ島での水泳に安全な場所と危険な場所の説明を得ていた。

保険の加入状況については、次のような不自然な事情がある。

原告山根眞一は、モルジィブ旅行の約一〇日前である同年一二月二四日にアメックスの事務所に脱退被告との保険契約の申込依頼書を持参し、右申込後にわざわざ保険の効力発生期間が昭和六〇年一月一日からであることを確認し、また、山根利恵を被保険者としている。

原告山根眞一は、昭和五九年一二月三一日、わざわざ東京シティエアターミナルに赴いて保険申込書を受け取り、翌日もう一度同所を訪れている。さらに、同原告は、被告東京海上の保険に加入していながら、被告ランバーメンズの保険に加入を申し込み、右保険申込みの日付けを一月二日(一月一日が正しい。)とし、保険加入申込書の作成と取り消しを繰り返している。

(三) 原告山根眞一の契約に係る山根利恵を被保険者とする保険契約の死亡保険金の合計金額は一億七五〇〇万円もの多額であり、しかも、保険事故の発生と右の各保険契約の締結の時期は、極めて近接している。

(四) 山根利恵は、左記事実を考慮すると、別紙図面P12”地点のリーフ(珊瑚礁で囲まれた部分)の浅瀬において溺死した。

(1)  事故直後、蘇生措置に先立って行われたポンプによる吸引の結果、山根利恵の体内から、食物、水とともに、約三八立方センチメートルの砂が吸引された。右事実は、山根利恵が砂によって海底が覆われたリーフの浅瀬において死亡したことを示している。

(2)  原告山根眞一と山根利恵は、昭和六〇年一月五日夜、ビアドゥ島のレストランを出て桟橋付近で別れ、原告山根眞一は桟橋のたもとにビニール袋を置いた後に海に入り、山根利恵はただちに海に入った。両名は、一〇分位で浜辺に戻り、浜辺づたいに移動した後、ダイビングスクールの建物方向へ向かい、図面P12”地点にビニール袋を置いた。

(3)  山根利恵はリーフの外側が深い外洋になっていることを認識しており、海岸からパッセージ4(珊瑚礁環の切れ目で外洋に続く部分。原告山根眞一が山根利恵が溺死したと主張する地点。図面参照)までは約三六〇メートルの距離があり、ダイビングスクールの建物からパッセージ4までの海底には珊瑚が点在し、パッセージ4の入口から外洋までは一五メートルの距離があって、その間をバランスを崩さずに歩行することは困難で、山根利恵が図面P12”付近からパッセージ4までひとりで歩いて行ったとは考えられない。

(五) 山根利恵の死亡時に側にいたのは原告山根眞一のみであり、山根利恵の左眼のまわりに打撲傷が存在し、原告山根眞一の両腕前腕部には縁状の傷が存し、原告山根眞一の主張に係る山根利恵の救出の状況は、不自然である。

(六) 原告山根眞一は、事故後、ホテルでシャワーを浴び、冷静に対応しており、山根利恵の遺体に対面しようともしなかった。

第七原告山根眞一及び同山根賢一の抗弁-第三の二2について

原告山根賢一及び同山根眞一は、昭和六二年一二月一八日、参加人らに対し、贈与を取り消すとの意思表示をした。

第八被告らの抗弁(第六)に対する原告山根賢一、同山根眞一、同野口周一、同瀬戸口孝子及び参加人らの認否

一1  第六の一1記載の事実は、否認する。

右契約は、生命保険契約ではなく、アメックスにおいて、年収三〇〇万円以上、勤続期間三年以上等の要件を満たすとの審査をしたカード会員とその配偶者のみが被保険者となるものである(配偶者のみでは被保険者とはなれず、必ずカード会員も被保険者となる夫婦が一体の保険である)。加入依頼書には被保険者の記入する同意欄のないこと、原告山根眞一に保険約款を交付していないこと、脱退被告はペンシルヴァニア州(アメリカ合衆国)法人であり、同意は不要と考えていたと思われ、被保険者たる山根利恵の同意を要するとの約定は存しない。

2  第六の一2記載の各事実は、認める。

重複保険に関する約款は、信義則に反して無効である。

二  第六の二記載の各事実は、認める。

重複保険に関する約款は、信義則に反して無効である。

三1  第六の三1及び2記載の事実は、否認する。

2  第六の三3記載の事実中、(一)及び(二)は認めるが、(三)は知らない。

重複保険に関する約款は、信義則に反して無効である。

四1  第六の四1記載の事実は、認める。

2  第六の四2記載の事実中、原告山根眞一がモルジィブ旅行を申し込んだ日時、本件各保険契約(補償金契約)締結の日時、及び保険金額は認めるが、その余の事実は、否認ないし争う。

山根利恵の死亡にいたる経緯は、次のとおりである。山根利恵と原告山根眞一は、昭和六〇年一月四日の夕刻、モルジィブのビアドゥ島へ到着し、翌五日、昼食後に連絡船で隣のビリバル島へ出かけて夕刻にビアドゥ島へ戻った後、午後七時三〇分ころから食事を始め、午後八時三〇分ころ、食事を終えて桟橋に向かった。山根利恵は桟橋の根元から海に入り、原告山根眞一は、山根利恵から求められ、海辺に置かれたビニール袋をとって、海中をダイビングスクールの建物の方向へ歩きながら山根利恵に渡し、両名は、袋の中のパンくずを魚に与えていた。ホテルの建物の前まで来た時、原告山根眞一は、山根利恵からビニール袋を浜辺において来るよう頼まれ、ダイビングスクールの建物の前に置くために浜辺に戻った。山根利恵は沖のパッセージ4の方向へ声をあげ、はしゃいで歩いて行っていたが、同人の声が聞こえなくなり、山根利恵が進んで行った方向をみるとパッセージ4の付近に白いものが見えたため、原告山根眞一は、その方向へ向かい、海底に足が着かなくなった所に浮いていた山根利恵を背負ってダイビングスクールの建物の方へ戻り、浜辺についた後に意識を失った。

第九原告山根賢一及び山根眞一の抗弁(第七)に対する参加人らの認否第七記載の事実は認める。

第一〇再抗弁

一  原告山根眞一、同山根賢一、同野口周一、同瀬戸口昌子及び参加人ら

1  被告シグナの抗弁1(第六の一)について

山根利恵は、昭和五九年一二月二一日ころ、原告山根眞一と脱退被告との保険契約(第二の一)の締結(保険金受取人原告山根賢一)について同意した。右保険は、一回限りの海外旅行向きのものではなく、飛行機に乗る回数の多い者に適しており、山根利恵は実家の佐賀との往来のために航空機を利用することが多く、また、父母(参加人野口二雄及び同野口孝子)が離婚しており、山根利恵と原告山根眞一が共に事故で死亡した場合に保険金の受取について争いが生じないようにし、原告山根賢一に悠太郎(原告山根眞一の子供)の養育をまかせることとするため、原告山根賢一を保険金受取人としたものである。

2  被告ランバーメンズの抗弁(第六の三1及び2)について

(一) 山根利恵は、昭和六〇年一月一日ころまでに、原告山根眞一と被告ランバーメンズとの各保険契約(第三の一)の締結(保険金受取人原告野口周一、原告瀬戸口昌子、参加人野口孝子)について同意した。

(二) 原告山根眞一は、昭和六〇年一月一日、右各保険契約の第一回保険料を被告ランバーメンズ代理人ザ・パイドパイパーに対して支払った。

二  参加人ら-第七について

原告山根賢一及び山根眞一の参加人らに対する贈与は、その内容がビデオテープに記録され、保存されており、書面による贈与と同視すべきである。

第一一再抗弁に対する認否

一  被告シグナ

第一〇の一1記載の事実は、否認する。

原告山根賢一が訴訟の当初において山根利恵の同意に係る具体的事実を主張しておらず、保険金受取人が配偶者又は自己の両親ではなく、配偶者の父親であること、山根利恵が原告山根眞一との離婚を考え、被保険者となることには反対していたこと、保険申込みの際、原告山根眞一のみがアメックスを訪れ、受取人欄の記載を山根賢一に訂正したこと、以上の事実からみて、山根利恵は、右保険契約の締結に同意していない。

二  被告ランバーメンズ

第一〇の一2記載の各事実は、否認する。

三  原告山根賢一及び同山根眞一

第一〇の二記載の事実は、争う。

(証拠)〈省略〉

理由

一  脱退被告関係の保険契約

1  原告山根眞一が脱退被告の代理人たるアメックスとの間で、被保険者山根利恵が昭和六〇年一月一日より同年一一月一日午後四時までの間に急激かつ偶然の外来事故に遭遇し、事故日から一八〇日以内に死亡したときには、原告山根賢一に対して保険金五〇〇〇万円を支払うとの保険契約を締結したこと、及び脱退被告が昭和六一年七月一日保険契約を被告シグナに包括的に移転したことは、原告山根賢一、参加人ら及び右被告間に争いがない。また、右契約締結の日は、昭和五九年一二月二四日であると認められる(〈証拠〉)。

原告山根賢一は、第一次的に、アメックスと脱退被告との間で右保険契約が締結されたと主張するが、〈証拠〉(普通傷害保険加入証)によるも、右を認めるには足りず、かえって、〈証拠〉によれば、右保険契約における保険料支払義務は加入申込者たる原告山根眞一が直接に脱退被告に対して負担し、保険証券も直接に加入申込者たる原告山根眞一に交付されている事実を認めることができ、右事実からすると、先に認定したとおり、アメックスは脱退被告の代理人として契嵜約したものと解される。

2  右保険契約においては、保険金受取人が法定相続人以外の者である場合、被保険者の同意を要する旨定められていることが〈証拠〉によって認められる(契約者がアメックス会員という特定集団の者であること及び保険者である脱退被告が外国法人であることは、何ら約款の効力を否定する理由とはならない。)。

そこで、右保険契約に関する山根利恵の同意の有無についてみるに、〈証拠〉にはそれに沿う部分があるが、他に客観的証拠はなく、かえって〈証拠〉によれば、保険加入依頼書は原告山根眞一が記載し、山根利恵が記載した部分はないこと、山根利恵は原告山根賢一とは一度も会ったことがないこと、山根利恵が両親又は配偶者のいずれでもなく、原告山根眞一の父親を保険金受取人とするについて合理的理由もないこと(山根利恵の両親である参加人両名が離婚している事実は、なんら合理的理由たりえない。)、以上の各事実が認められ、これらの事実からすると、右保険契約における保険金の受取人を原告山根賢一とすることについて山根利恵が同意した事実はなかったと推認するのが合理的である。他に山根利恵の同意があったことを認めるに足りる証拠はない。

3  よって、原告山根賢一の被告シグナに対する請求、参加人らの原告山根賢一及び被告シグナに対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

二  被告東京海上関係の保険契約

1  原告山根眞一が昭和六〇年一月一日被告東京海上との間で、山根利恵及び原告山根眞一を被保険者、保険金受取人を法定相続人、保険金を五〇〇〇万円とする保険契約を締結したことは原告山根眞一、参加人ら及び被告東京海上間に争いがない。これによれば、原告山根眞一、参加人野口孝子及び同野口二雄は、それぞれ法定相続分に従った保険金請求権を取得したものと解される。

2  同被告は、右保険契約について、重複保険を理由とする解約を主張するところ、右契約において、保険契約者が重複して保険契約を締結するときは、書面をもって同被告に通知して保険証券へ承認の裏書を請求すること、重複保険契約の事実を知ったとき、同被告は保険契約を解約できると合意されたことは右関係の当事者間に争いがない。

右保険において重複保険の事実を通知させ、また、保険者に解約権を与えようとする趣旨は、保険利益を超過する保険契約を重複して締結することを無制限に認めるときは、保険契約上の利得を得んとするあまり、保険事故の招来をもくろむなど、善意の上に成り立つ保険制度の維持の見地からみて重大な事態を招くおそれがあることにかんがみ、保険制度を悪用する保険契約者等を排除しようとすることにあると解される。そうすると、重複保険を理由とする保険契約の解約は、保険契約者等が保険事故の発生に関与した(この場合には、契約上保険金の支払はされないこととされている。)ものとは認められないまでも、保険契約者等に保険制度を悪用する意図があるものと認めうる場合にこれをすることができるものと解すべきである。本件において、保険契約者等に右意図があることは被告東京海上の主張立証しないところであるから、同被告の契約解除に係る主張は、理由がない。

三  被告三和航空関係の保険契約

山根利恵が昭和五九年一二月二五日ころ被告三和航空との間で、補償金受取人を法定相続人、補償金を一五〇〇万円とする補償契約を締結したことは、原告山根眞一、参加人ら及び被告三和航空間に争いがない。これによれば、原告山根眞一、参加人野口孝子及び同野口二雄は、それぞれ法定相続分に従った補償金請求権を取得したものと解される。

四  被告ランバーメンズ関係の保険契約

1  〈証拠〉によると、昭和六〇年一月一日、原告山根眞一は、被告ランバーメンズとの間で、その損害保険代理店であったザ・パイドパイパー(代表取締役原告山根眞一)の従業員山口亮を介し、山根利恵が昭和六〇年一月三日より一〇日までの間、海外旅行の目的をもった住居の出発から帰着までの間に急激かつ偶然の外来事故に遭遇し、事故日から一八〇日以内に死亡したときには、原告瀬戸口昌子に対して保険金五〇〇万円(保険料一三六〇円)、参加人野口孝子に対して保険金二〇〇〇万円(保険料六六〇〇円)を支払う旨の保険契約を締結したことを認めうる。しかしながら、原告野口周一の主張に係る同原告を保険金(五〇〇〇万円)の受取人とし、山根利恵を被保険者とする保険契約が昭和六〇年一月一日に成立したことを認めるに足りる証拠はない。右主張に係る内容の保険契約の申込みが同月九日にされたことを認めうる(〈証拠〉)が、右当時、山根利恵は既に死亡しており、保険契約の成立を認めることはできない。

2  〈証拠〉によれば、被告ランバーメンズと原告山根眞一との間の右認定の保険契約について、被保険者たる山根利恵の同意を要する旨の約定がされていた事実を認めることができ、原告山根眞一は、その本人尋問において、右保険契約について山根利恵が同意した旨供述するが、他に客観的な裏付けとなる証拠もなく、先に認定したとおり、脱退被告との間の保険契約も山根利恵の同意を得ることなくして締結されたものであり、また、後記認定のとおり、被告らとの契約が山根利恵の意思にかかわりなく、もっぱら同原告の意思に基づいて締結されていることに照らすと、右契約について山根利恵が同意していたものと認めることは到底できないというほかない。なるほど、参加人野口孝子は山根利恵の母で原告瀬戸口昌子は山根利恵の叔母に当たり、ともに東京に在住していることから原告瀬戸口昌子と山根利恵は頻繁な交際があり、同人が悩みごと等を相談する関係にあったことが認められるが、右事実から山根利恵が右契約に同意していた事実を認めるには足りず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

3  よって、原告野口周一、同瀬戸口昌子及び参加人野口孝子の同被告に対する請求は、その余の点についてみるまでもなく、理由がない。

五  山根利恵の死亡

〈証拠〉によれば、山根利恵が昭和六〇年一月五日午後九時ころ、被告三和航空主催の旅行先であるモルジィブ共和国ビアドゥ島の海岸にて溺死した事実を認めることができ(死因を除いては当事者間に争いがない。)、また、山根利恵の相続人は夫である原告山根眞一、父である参加人野口二雄及び母である参加人野口孝子である事実は、原告山根眞一、参加人ら、被告東京海上及び同三和航空間に争いがない。

これによれば、山根利恵が自殺したことを疑うに足りる事情が全く見当たらない本件では同人について、右認定の各保険契約等に定める保険事故が発生したものと解される。

六  山根利恵の死亡と故意免責

1  原告山根眞一と被告東京海上との間の保険契約において保険契約者の故意によって生じた事故については保険金を支払わないとの約定がされていること、被告三和航空と山根利恵との補償契約において補償金受取人の故意によって生じた事故については補償金を支払わないとの約定がされていることは、いずれも原告山根眞一、参加人らと右各被告間に争いがない。

右被告らは、山根利恵の死亡が原告山根眞一の故意によって生じたものであると主張する。〈証拠〉を総合すると、山根利恵の死亡に至る前後の事情について、次の事実が認められる。

(一)  原告山根眞一は、昭和四七年八月二八日に瀬口邑と婚姻(同女との間に、同四五年九月二三日、長女純をもうけた。)したが、同五一年二月二五日に離婚し、同五四年二月三日に安藤玲子と婚姻(同女との間に、同五五年一〇月二日長男悠太朗をもうけた。)したものの、同五七年一二月七日に離婚し、同五八年八月末ころ、山根利恵と知り合って同五八年一一月二一日に婚姻した。

山根利恵は、同原告との婚姻後、同原告が暴力をふるうなどするのに耐えられず、離婚の意思を抱くに至り、昭和五九年六月から九月ころにかけ、叔母である瀬戸口昌子、神光会教祖松元美智子及び同会理事長菅又保らに対し、原告山根眞一との離婚について相談していた。

(二)  原告山根眞一は、昭和五九年一一月末ころ、被告三和航空に対して「モルジィブ・ビアドゥ八日間」のコースの旅行を申し込み、同年一二月一九日、右旅行を同六〇年一月三日出発のものに変更した。

原告山根眞一は、昭和五九年一二月二四日、同年一〇月一八日に送付を受けていた脱退被告との間の前記保険の申込依頼書をアメックスの事務所に持参して右保険を申し込み、保険の効力の発生期間が昭和六〇年一月一日からであることについて確認をしたが、アメックスの取り扱う右保険について申込書を自ら持参するのは稀な例に属する。また、同原告は、格別勧誘を受けることもなく、同年一二月三一日、東京シティエアターミナルに赴き、被告東京海上の保険の申込書を受領し、翌六〇年一月一日、再び同所に赴き、同被告との間の前記保険契約を締結した。

原告山根眞一は、被告ランバーメンズとの間では、当初昭和五九年一二月二九日、被保険者を山根利恵とする保険金五〇〇〇万円(受取人の指定なし)、保険金七五〇〇万円(受取人の指定なし)、及び保険金二〇〇〇万円(受取人原告瀬戸口昌子)の三口の申込書を作成したものの、契約締結には至らず、昭和六〇年一月一日、被告東京海上と前記契約を締結したのち、同日、ザ・パイドパイパーの従業員山口を介し、被保険者を山根利恵とする保険金五〇〇〇万円(受取人の指定なし)、保険金二〇〇〇万円(受取人参加人野口孝子)及び保険金五〇〇〇万円(受取人原告瀬戸口昌子)の三口の保険の申込書を作成し、前記認定のとおり保険金二〇〇〇万円及び同五〇〇万円の二口のものについて保険契約を締結し、保険金五〇〇〇万円の申込書について、原告山根眞一は、山根利恵の死亡後である同年一月九日、受取人欄に「山根眞一」と書き入れ、一度これを抹消して「野口周一」と書き替えた上、新たな申込書に打ち直した(〈証拠〉)。

脱退被告、被告東京海上及び同ランバーメンズに対して申し込まれた山根利恵を被保険者とする保険契約の死亡保険金の合計金額は一億七五〇〇万円の高額にのぼる。

(三)(1)  ビアドゥ島は、島の回りを珊瑚礁に囲まれ、海岸線から珊瑚礁環までの間はリーフと呼ばれる比較的遠浅の海となっており、海中には珊瑚礁が数多く点在している。珊瑚礁環の一部に珊瑚礁が除かれてリーフから海洋への通路となる部分(パッセージ)が複数設けられている。島の北部にはレストランがあり、同所の北東の方向にホテルの受付及び桟橋があり、北の方向にダイビングスクールの小屋、また北方向のリーフの外側にはパッセージ5、西方向のリーフの外側にパッセージ4が存在している(パッセージ4とパッセージ5の間は約三五〇メートル)。パッセージ4の部分の海底は、砂はあまりなく、珊瑚の死骸と大きな珊瑚が点在しており、同所をバランスを崩すことなく歩行することは困難な状態であり、同所から外洋側には崖状に深く落ち込んでいる(右の位置関係の概略については、別紙図面参照)。

(2) 山根利恵と原告山根眞一は、昭和六〇年一月四日の夕刻、モルジィブのビアドゥ島へ到着し、翌五日、昼食後に連絡船で隣のビリバル島へ出かけて夕刻にビアドゥ島へ戻り、午後七時三〇分ころから同八時三〇分ころにかけて夕食をとり、食後、桟橋付近から海に入った。

その後の山根利恵のたどった経路は明確でないが、同人は水中で溺れ、原告山根眞一は、溺れた山根利恵を背負ってダイビングスクールの小屋の近くの海岸まで運び、同所付近で出会った人に助けを求め、同原告はホテルの受付のあたりで気を失った。山根利恵は、蘇生措置を施され、ポンプによる吸引を実施されて直径約七センチメートルのシリンダーに約一センチメートル溜まる量の砂を吸引されたが、蘇生せず、その死亡が確認された。また、検案された山根利恵の遺体の左眼のまわりには打撲傷が認められ、当時診察を受けた原告山根眞一の両腕前腕部には縁状の傷が認められた。

(四)  原告山根眞一は、山根利恵の死亡に至る経緯について、両人は桟橋の根元から海に入り、パンくずを魚に与えながらダイビングスクールの小屋とレストランの前を通ってホテルの建物の前まで来たとき、山根利恵は、持っていたビニール袋を浜辺において来るように原告山根眞一に求め、一人で沖の方向へ声をあげ、はしゃいで歩いて行き、一方、浜辺に戻った原告山根眞一は、山根利恵の声が聞こえなくなり、同人の進んだ方向に白いものを認め、その方向に向かい、パッセージ4の付近の海底の足が着かなくなった所に浮いていた山根利恵を背負って浜辺に向かったと本人尋問中で供述している。

しかし、山根利恵はラグーンの外側が深い外洋になっていることを認識しており(〈証拠〉)、海岸からパッセージ4までは一〇〇メートル以上の距離があり(〈証拠〉)、ダイビングスクールの小屋の付近からパッセージ4までの海底は珊瑚礁が点在しており、また、その間の距離を考慮すると、夜間に散歩するのにふさわしい所であるとは到底いえないこと、殊に、パッセージ4の海底はバランスを崩さずに歩行することが困難な状態であること、パッセージ4付近で山根利恵を背負った後の経路について、原告山根眞一が、当初、ダイビングスクールの小屋の明かりをめざして進んだと主張し、のちに、最初にバンガローの方向に向かい、後にダイビングスクールの小屋を目指したと主張が変遷していること、以上の各事実に照らすと、山根利恵が溺れた場所に関する原告山根眞一の供述は、容易に信用することはできない。

2  右認定のとおり、原告山根眞一と山根利恵の夫婦関係が原告の暴力のために必ずしもうまくいっていなかったこと、そのような事情の下において、原告山根眞一が山根利恵の意思には全くかかわりなく、同人との旅行に切迫して短時日のうちに少なからぬ口数の巨額にのぼる保険金額の保険契約を申し込んでいること、右保険の申込時期と保険事故の発生の日も切迫していること、山根利恵の体内から三〇ccを超える多量の砂が検出されており、海が深く、海底に砂の少ないパッセージ4の付近で溺れていたとする原告山根眞一の供述と明らかに整合せず不自然であること、山根利恵の遺体に打撲傷害の認められたこと等を総合考慮すると、山根利恵の溺死の態様及び原因には強い疑問が残る。特に、これらの点からは、山根利恵が、原告山根眞一の供述とは異なる、もっと浅い、海底に砂の多い位置で溺れたこと、そのような場所で山根利恵が溺れるについては、人為的な力が加えられたのではないかとの疑いを強く抱かされるが、なお、これについて原告山根眞一が自ら手を下して山根利恵を溺死させたと認めるには足りないという外ない。他に原告山根眞一が山根利恵の死亡に直接関与したと認めるに足りる証拠はない。

七  参加人らの保険金請求権等の贈与の主張

原告山根眞一が被告東京海上及び同三和航空に対する保険金及び補償金請求権を参加人らに贈与した事実を認めるに足りる直接証拠は、存しない。

もっとも、〈証拠〉を総合すると、山根利恵の通夜が行われた昭和六〇年一月七日及び初七日である昭和六〇年一月一一日ころ、原告山根眞一が参加人らに対して山根利恵の保険金の大部分を参加人らにおいて受け取ることを容認するかのように発言し、委任状と印鑑証明を用意するように述べた事実が認められる。しかし、右各証拠によっても、保険金請求権のうちどの部分を参加人らに贈与するというのか、およそ明暸でなく、原告山根眞一の右発言も、たかだか同原告において保険金を受領したときは相応の金額を参加人らに分与する意思があることを表明したのにとどまり、法律上の贈与の意思表示がされたものと認めることはできない。

よって、右贈与を前提とする参加人らの原告山根眞一、被告三和航空及び被告東京海上に対する各請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

八  以上の次第で、

1  原告山根眞一の請求中、

(一)  被告東京海上との保険契約に基づき、保険金五〇〇〇万円について山根利恵の相続人としてその法定相続分の割合である三分の二に相当する三三三三万三三三三円とこれに対する同被告において保険事故の発生を知った日以後である昭和六一年六月一八日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払、

(二)  被告三和航空との契約に基づき補償金一五〇〇万円について山根利恵の相続人としてその法定相続分である三分の二に相当する一〇〇〇万円とこれに対する同被告において保険事故の発生を知った日以後である同年六月一八日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払、

2  参加人野口孝子の請求中、

(一)  原告山根眞一と被告東京海上との保険契約に基づき、保険金五〇〇〇万円について山根利恵の相続人としてその法定相続分の割合である六分の一に相当する八三三万三三三三円及びこれに対する同被告において保険事故の発生を知った日以後である昭和六二年一月二一日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払(右訴えは、独立当事者参加の訴えとともに提起されてはいるが、右保険金の受取人である法定相続人としての保険金請求であって、独立当事者参加の訴えとは独立の訴えである。)、

(二)  原告山根眞一と被告三和航空との契約に基づき補償金一五〇〇万円について山根利恵の相続人としてその法定相続分の割合である六分の一に相当する二五〇万円とこれに対する同被告において保険事故の発生を知った日以後である昭和六二年一月九日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払(一〇〇〇万円の請求中には、山根利恵の法定相続人として補償金の法定相続分二五〇万円の支払を求める訴えも含まれていると解される。)、

3  参加人野口二雄の請求中、

(一)  原告山根眞一と被告東京海上との保険契約に基づき、保険金五〇〇〇万円について山根利恵の相続人としてその法定相続分の割合である六分の一に相当する八三三万三三三三円及びこれに対する同被告において保険事故の発生を知った日以後である昭和六二年一月二一日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払(訴えの性格については、参加人野口孝子の被告東京海上に対する訴えに同じ。)、

(二)  原告山根眞一と被告三和航空との契約に基づき補償金一五〇〇万円について山根利恵の相続人としてその法定相続分の割合である六分の一に相当する二五〇万円とこれに対する同被告において保険事故の発生を知った日以後である昭和六二年一月九日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払(訴えの性格については、参加人野口孝子の被告三和航空に対する訴えに同じ。)、

を求める限度でいずれも理由があるからこれを認容する。

原告山根賢一の被告シグナに対する請求、原告野口周一、同瀬戸口昌子及び参加人野口孝子の被告ランバーメンズに対する請求、参加人両名の原告山根賢一、同山根眞一及び被告シグナに対する請求、被告東京海上及び同三和航空に対するその余の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとする。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行及び同免脱の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江見弘武 裁判官 小島正夫 裁判官 片田信宏)

別紙〈省略〉

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